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AIは本当に雇用を奪うのか——ChatGPT以降の米国で実質賃金が上昇している事実をどう読むか
2024年に書かれ2026年7月に再掲された、『Power and Progress』の自動化悲観論を批判する書評から、AI後の評価制度と役職定義を見直す視点を引き出す。
原題
“Book Review: "Power and Progress"” (『Power and Progress』書評——AI自動化悲観論の弱点)
原文からの引用
“The idea that the Haber-Bosch process has 'brought nothing like shared prosperity' is an absolutely wild claim. Nitrogen fertilizers are so important to human existence that by the most common estimates, about half of the entire population of Earth — 3.5 billion people — is only sustained thanks to this technology.”
日本語訳 ハーバー・ボッシュ法が「共有された繁栄など何ももたらしていない」という主張は、まったくもって荒唐無稽だ。窒素肥料は人類の生存にとって極めて重要であり、最も一般的な推計では、地球の全人口の約半分——35億人——がこの技術のおかげでのみ生存できている。
要点
- Acemoglu & Johnson の著書『Power and Progress』は、テック企業の権力が技術革新の方向を「労働者を補完するもの」ではなく「労働者を代替するもの」へ歪めてきたと主張するが、書評著者のNoah Smithはその歴史的根拠が軒並み脆弱だと批判する
- Smithは、「技術革新のメニューを政策的に操作して、より労働補完的な技術を選ばせる」という同書の中心的提言を、どの技術が雇用を増やすか事前に分からない以上、実行不可能だと指摘する——産業用ロボットについても、Acemoglu らの研究に続く後続研究の多くは、導入と雇用増加の相関を見出している
- Smithによれば、産業革命期の賃金停滞は自動化の偏りより生産性成長の鈍さで説明できる可能性が高く、米国でも1970年代以降、賃金は概ね生産性に追随してきたとして、「生産性向上の果実は労働者に届かない」という見方に疑問を呈している
- Smithは、AIが爆発的に広がった期間(予測AIは2012年、生成AIはChatGPTなど2022-23年に普及)に米国で実質賃金が上昇し続け(ポストコロナのインフレ期を除く)、生産・非管理職の賃金上昇が管理職を上回り、賃金格差は2010年代初頭から横ばいだと指摘する。不平等が加速するという予想とは合わないという
- Smithは「技術の方向を変える」より、「事後的に労働分配率を高める政策(共同決定・産業別交渉などの制度や、資本所得への課税で賄う賃金補助)」の方がはるかに単純だと代替案を提示
編集部の考察
現在の評価項目のうち、AIで代替可能なタスクを何%含んでいるか——役職ごとにこの数字を出せるかが、この書評から自分の組織に持ち帰るべき問いだ。根拠となるデータ(要点4)は具体的で、AIが爆発的に広がった期間に米国で実質賃金が上昇し、特に生産・非管理職の賃金上昇が管理職を上回った。Smithはこれを AI が原因だと断じてはいないが、悲観論と合わない事実として挙げている。自分の組織では、AI導入後に「誰の仕事量が増え、誰の仕事が減ったか」を実際に計測できているだろうか。評価体系がAI前の役割定義のままになっていないか。現場メンバーがAIで月20時間分のレポート作業を代替した分、その人の評価は上がったか。管理職が担っていた「情報集約・レポーティング・会議ファシリ」をAIが代替しうる今、管理職の評価指標にそれが反映されているか。「AI悲観論は間違い」で終わらせず、冒頭の数字を役職ごとに出すだけで、次の人事施策で更新すべき評価基準と役職定義が具体的に見えてくる。
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